インタビュー:宮内 健(ramblin')

2014年2月に発表したファースト・アルバムが、大きな反響を呼んだシンガー・ソングライター=かみぬまゆうたろう。リリース後、地方で歌う機会も増え、活動の幅を広げていった彼が、約1年ぶりとなる新作『となりのへやではきみがないている』をリリースした。現在26歳のかみぬまゆうたろうに、完成したばかりのセカンド・アルバムについて、そして曲が生まれる背景など、たっぷりと話を訊いた。

──ファースト・アルバム『かみぬまゆうたろう』を昨年リリースしたことで、かみぬまくん自身が感じた手応えはありますか?

かみぬま:活動の幅は、だいぶ広がったと思います。それまではほとんど都内でしかライヴもやったことがなかったんで、それが地方にも行かせてもらえるようになってきて。いろんな場所に行っても、いい感じにCDを聴いてきてくれるお客さんがいるのは嬉しかったですね。

──新しいアルバムを作るにあたって、どんな作品にしたいと思い描いていましたか。

かみぬま:ファーストは、曲によって演奏しているメンバーが違ったので、ライヴを観てもらってからCDを聴くと印象がガラッと変わってる曲も多かったと思うんですね。なので、今回バンドでやる曲に関しては、全部同じメンバーで録音したいなって思ってました。去年の夏ぐらいからソロの曲を録りはじめて、そのあたりから並行してバンドセットの練習にも入りはじめて。

バンドメンバー 左から:野村卓史(pf) 服部将典(b) 沖田優輔(dr)

──かみぬまくんから見た、メンバーそれぞれの印象はどんな感じですか?

かみぬま:服部(将典)さんとは、もともとNRQで一緒にやったことがあって。さらっと練習してきてる感じだけど、その時点でしっかり弾けてるというか。曲にあわせる力がすごい。職人だなって感じますね。オッキーさん(沖田優輔)は、前作から引き続き参加してもらってるので、曲に対しても理解してくれてて。歌に寄り添って叩いてくれる素晴らしいドラマーですね。(野村)卓史さんは、グッドラックヘイワでもご一緒したこともあって、長崎さん(ギャラクティック代表)に紹介していただいて。バンドと合流するまでちょっと時間があったんですけど、優しい人柄で他のメンバーともすぐに打ち解けました。
佐藤良成さんは昔から好きで、ハンバートのライブや、下北沢のラ・カーニャでやっていたソロライブも何度か観に行っていました。今回、フィドルを弾いて頂いて、良成さんのもっている雰囲気がいい感じに混ざっていると思います。

──弾き語りソロのスタイルから、先述した3人とのバンド・スタイルを中心に、ハンバートハンバートの佐藤良成さんの1曲参加したりと、バリエーションにも富んでいます。それに、今回はアナログ・レコーディングで制作されたんですよね。

かみぬま:アナログ録音には以前からすごく興味があって、ファースト・アルバムの時にもやりたいって話をしてたんですけど、予算などの都合で出来なくて。で、今回セカンド・アルバムを作るにあたって再度提案したら、アナログで録音出来ることになって。

──実際にトライしてみてどうでしたか?

かみぬま:演奏力や表現力を求められると思うんですよね。録ったものをそのまま出しているようなものだし、後から切ったり貼付けたりっていうのはできないし。それに、音を録ってるその場のノリや空気感はすごく出ますよね。

──いい具合に緊張が張りつめることで、バンドの一体感も生まれるでしょうしね。アナログ録音ならではの音のぬくもりも、かみぬまくんの音楽にフィットしてて。

ギャラクティック長崎:とくにアコースティックギターの音は格段に良いですね。もちろんスタジオの空間や、マイクやシステムの選び方やセッティングで全然変わってくるんですけど、今の主流であるデジタル録音より生々しく録音されてるように感じますね。

1stアルバム かみぬまゆうたろう

──そういう録音環境が直接影響しているかどうかはわからないんですが、前作を最初聴いた時にやや若さがあるなって印象を持ったんだけど、今回のアルバムで聴けるかみぬまくんの歌は、すごく大人に感じるんですよね。実際、今作までのインターバルって1年も空いてないと思うんですけど、短い間に深みみたいなものが増していて。それがサウンドからの影響なのかもしれないし、今回一緒にレコーディングしたプレイヤーとの相性みたいな部分のもあると思うし。

かみぬま:うん、自分でもそう感じます。大人というよりは、深みっていう言葉のほうがしっくりくるかもしれないです。

長崎:それはかみぬまくんの、この1年の活動で得た経験からくるものなんじゃないですかね。

仙台市天文台でのライブ 奇妙礼太郎、蔡 忠浩とMoon Riverをセッション

──東京以外のライヴも増えたのもあるし、bonobosの蔡忠浩くんや奇妙礼太郎くんをはじめ、同じ弾き語りのスタイルで活動しているアーティストとの共演も多かったですよね。そういった面々と共演することで、自分の表現を見直すようなこともありますか?

かみぬま:毎回反省しますね(笑)。やっぱりすごい人と共演すると、純粋に感動して自分は全然まだまだなんだなって思い知らされるというか。なんていうか説得力が違うじゃないですか。単純に経験や年齢を重ねているというのもあると思うんですけど、技術面なんかも含めて、もっとがんばらなきゃなって思うし。

──なるほどね。ところで先ほど長崎さんからアコースティックギターの音がとくに良いっていう話も出てましたが、いまメインで使っているギターは何ですか?

かみぬま:その時々で変えてはいるけど、最近は1923年製のマーティンか、1965年製のギブソンですね。あとは1996年製のコリングスっていうギター、その3本でやってますね。

──1923年製のマーティンが、前作に収録された「アメリカ生まれのおじいさん」のギターなんですね。たとえばそのマーティンギターの好きな部分っていうのは?

かみぬま:めちゃくちゃ弾きにくいんですよ。ギターのフレットの部分って普通丸くなっているだけど、昔のギターってバーフレットっていってフレットの断面が四角くなってて、そのせいですごく弾きにくいんです……でも、音はとにかく良くて。そのギターでライヴをやってしまうと、みんなからも「ギターの音がすごくいいね」って言ってもらえるもんで、それ以外使えなくなっちゃたんですよね(笑)。扱いづらいギターだけど、それでもうこれでいくしかないなって。

──でも、その古いギターならではの音色から、曲が引き出されるところもある?

かみぬま:ありますね。僕はだいたい曲から作るんで、ギターの音にはすごく助けられてますね。

──ちなみに、これはいつ頃入手したんですか?

かみぬま:22歳くらいのときですね。お茶の水のアコースティックギター専門店に置いてあって。カッコいいな~って思って弾かせてもらったら、音はすごく良かったんですけど、ギターとしての状態はかなり悪くて。それで30万ぐらいだったんですよ。で、違う店にいったら同じようなギターが99万で売っていて、そっちも弾いたら今度は全然音が良くなくて。なので、すぐに戻って最初に弾いたギターを買いました(笑)。

──なるほど、いい出会いがあったんですね。では、ここからはニューアルバムの『となりのへやではきみがないている』について訊いていきたいと思うんですが。今回入っている曲はわりと以前からある曲なんですか?

かみぬま:そうですね。ほぼ以前からあるもので。一番古いのだと、ファースト・アルバムを発表する前、20歳ぐらいの時に出したデモに入れてた「傷口」という曲ですかね。今回のために書き下ろしたのは「ちいさな背中」という曲です。

会場限定EP 傷口 ※弾語りver収録

──「傷口」は、そんなに若い頃に作った曲とは思えないぐらい、1曲の中でひとつのドラマがしっかり成立してる。

かみぬま:単純に酷い男の歌ですよね。まあ、僕の歌ってだいたいそうなんですけど(笑)。

──たしかに、かみぬまくんの歌に出てくる男は、大抵ひどいヤツですよね(笑)。この「傷口」も、〈上手に嘘をつけば大丈夫だとおもっていた〉とか、自分の弱さも情けなさも、正直にさらけ出している風なんだけど、聴いててひとつ疑問に思うのは、この明るいアレンジはなんなんだっていうところなんですよ。

かみぬま:あー、なるほど。

──そこで僕は勝手に、歌詞の中では正直に自分をさらけ出しているように見せて、裏ではもう一回舌を出してるような、男のズルさを感じたんですよね。謝っときゃ大丈夫だろうみたいな、実はもう一つ嘘を重ねてる感じ(笑)。

かみぬま:曲調が明るくなったのは、ファーストを作っていた時にベースを弾いてくれていた、モッチェ永井さんの持ち前の明るさに引っ張られたところではあるんですけど、たしかに、チャラいっていうか、軽い感じになってますよね(笑)。

──いや、でもその毒っ気こそが、かみぬまくんの歌の本質だと思うし、すごさだとも思うんですよ。

かみぬま:常に毒っ気は意識してるんですよ。それがわかりやすく出ている曲だとは思いますね。歌詞の最後にある〈君の傷口が ぼくをにらんでいる〉というフレーズは、実は最初は違う言葉だったんです。前作で「シルエット」にも参加してもらったギターパンダ先生に、この曲のデモを渡した時に、『曲としてはいいんだけど、歌詞の起承転結の作りとしては甘い』って指摘されて、それで最後の歌詞だけは変えたんですよね。

──たしかに、その1フレーズが違うだけで、大分印象が変わってきますよね。〈君の傷口が ぼくをにらんでいる〉という言葉は、さっき話したような男のズルさを、実は女もしっかり見透かしてるようにも見えるし。ストーリーに深い余韻を与えていて……これは前作から感じていたことなんですけど、かみぬまくんの歌詞には、ストーリーテラーの才を感じるんです。曲の中で、ひとつの物語を描いていくっていう感覚は、ご自身でも意識されてますか?

かみぬま:はい、それは常に意識してます。そういう歌が、聴きやすいのか聴きにくいのかわからないですけど、心に入ってくる感じはあると思うんですよ。

──「傷口」なんかは、男性の目線から綴られていますが、たとえば3曲目「あなたが眠っているうちに」や、前作収録の「私の恋人」のように、かみぬまくんの歌詞には女言葉で綴られてるものもありますよね。

かみぬま:歌詞に関してはいつも、曲を作ってる段階で生まれた1フレーズを膨らませて構成していくことが多いんです。なので、浮かんだフレーズが女性目線なものだったら、そこから広げていくから、そういう歌詞になるんでしょうね。たとえば「あなたが眠っているうちに」って曲は、僕が当時付き合っていた子の目線で書いた曲で。僕が夜中に部屋でギターとか弾いてる時、彼女は眠りながらうるさいだろうなってって思いつつ……まあ、悲しみで書いた曲ですね(笑)。

──そういうのは、別れてから書いてるの?

かみぬま:そうですね……何回か別れたり、くっついたりしつつ。でも、これは別れてるときに書いてますね。

──そういう男性目線・女性目線とはまた別の切り口として、「ハローグッバイ」はすごく怖い歌だなって思いながら聴きました(笑)。

かみぬま:怒りの曲ですね(笑)。突き放す感じの曲というか。この曲、卓史さんやゲスの極み乙女。の課長も褒めてくれて。男の支持率は高い曲ですね。「ハローグッバイ」で歌ってることは、結構みんな感じていることだと思うんです。ただ、それを歌にする人ってなかなかいないと思うんですよね。〈きみのせいだ〉と言い放たないで、〈自分が悪かった〉みたいな感じで歌にする人はいると思うんですけど。まあ、なかなか無いですねこのパターンは(笑)。

──そういう一歩引いた客観性や、自分ではない別の目線で歌詞を紡いでいくのは、照れ隠しというか、ちょっと気恥ずかしいと思う部分があるんですか?

かみぬま:うーん、自分でも思うけど、僕はひねくれてるんですよね。その、素直じゃない感じが出てるんだと思うんです。

──そのひねくれてる感覚が、かみぬまゆうたろうっていう人格の根っこにある?

かみぬま:ええ、根っこにはありますね。歌だと、それをモロに出したいっていう欲求もあって。これを同じような内容でも、バリバリのロックバンドだったら言い放って終わりだと思うんですけど、僕がやってる弾き語りみたいなスタイルや、ポップな曲調だったらちょっと笑えるというか。

──たしかに、「ハローグッバイ」の歌詞なんかは、パンク・バンドが中指立てて歌っててもおかしくない(笑)。まあ、反骨心っていうと大げさかもしれけど、どこかささくれ立っているような感覚はあるし、そこがいいなって思うんです。かみぬまくんの歌ってスウィートなんだけど、甘ったるいだけじゃなく、ビタースウィート。しかも苦み成分が結構強めで、そこが男として聴いても共感する部分がある。女の子は、男の弱さやズルさを歌っている歌詞に、自分の経験に重ね合わせて「こんな奴いたよな」って自分の過去に苦笑いしながらも、やっぱりそういう男に本能的に惹かれてしまう……みたいな。そんなノリで聴いてるんじゃないかなって思うんです。これは完全に僕の妄想なんですけど(笑)。

かみぬま:ははは(笑)。しかし、女性は実際どう思って聴いてるんでしょうね。

長崎:ジャケットを手がけてくれているデザイナーのソノダノアさんは、「ハローグッバイ」を聴いたらもう辛過ぎて、その反動で今回のアルバムのアートワークは明るいイメージの方に持ってきたくなったって言ってたよ。まあ、受け止め方は人それぞれだしね。僕は「ハローグッバイ」の歌詞から、合コンの一場面を想像もしたし(笑)。

──うわー、たしかに合コンでこんなこと言われたくないなぁ(笑)。曲の並びは前後しますが、2曲目の「ちいさな背中」で歌われている〈地球が揺れて〉っていう歌詞ですが、やっぱり震災以降の不安さと、そばに誰かがいることの安心感みたいなものを覚えます。

かみぬま:もう、その通りですね。ぶっちゃけると、ずっと付き合っていた子が福島の人で原発の15km圏内の出身で。事故の後、家族や親戚と避難することになったんです。震災当時は付き合ってなかったんですけど、彼女は行くところがなくて、僕の家に身を寄せていんですよ。それで結構一緒に住んでいて。だから〈むかしは簡単に言えたのに〉って歌詞も、付き合っていた時は簡単に言えたことも、今となってはなかなか言えない気持ちを表していて。

──なるほど。空いてしまった時間で生じる、心情の変化もありますしね。〈うまく吐き出せずに腐っていく日本語の言葉〉っていうフレーズも、すごく切ない。ただ、今の話を聞くと、歌詞自体は結構リアルな出来事が反映されてるものなんだってわかるけど、その物語のバックグラウンドを知らない誰が聴いても、どこかで共感できるような物語に仕立てられているのが、かみぬまくんをストーリーテラーと呼びたくなる所以でもあって。

かみぬま:たしかにこの曲とか、ファーストに収録されている「ぼくのたからもの」とかかなりリアリティのある曲で(笑)。でも自分のことを歌っている曲を聴いて、それに共感してくれる人がいるっていうのは不思議な感じもありますよね。もちろん、歌詞を書く時には共感してもらおうなんて意識はまったくなくて……これは、本当に最近気づいたんですけど、聴く人のその時の気分で共感の度合いは変わるんだなってって思うんですよね。

──それは、どういうことですか?

かみぬま:聴き手ってその時の心境で、感じ取り方も変わると思うんですよね。この間、僕のライヴをすでに何回か来てくれてるはずのお客さんが、ライヴを観て泣いてたんです。そんな泣くような歌を歌ったっけかな? って思ったんですけど(笑)、終った後にそのお客さんから「すごく良くて、泣いちゃいました」って言われて。たぶんその時期に、お客さんに起こっていた出来事や心境と、曲の波長が合ってしまったんでしょうね。

──なるほどね。

かみぬま:僕自身も最近、島崎智子さんっていうシンガーの方のライヴを観に行って、彼女のライヴがすごく良くて、つい泣いてしまって……やっぱり弾き語りって歌詞が入ってくると思うし、純粋に感動しちゃったんですよね。

──かみぬまくん自身、人の音楽聴いて涙することは割とある方なんですか?

かみぬま:いや、無いです。竹原ピストルさんのライヴを観た時、打ちのめされて泣きそうになっていうのはあったけど、実際に泣きはしなかったし。だから、島崎さんのライヴの時は、彼女の曲と僕の心境が合ってたと思うんです。

──「ちいさな背中」も、今現在が幸せな人が聴いたら、また全然違う形にも受け取れるだろうし。離ればなれにならざるを得ない状況にいる人が聴いたら、それはものすごく心に刺さるだろうし……〈背中むけてねむっている君は昔の恋人〉って、「昔の恋人」という言葉が、これまた刺さるんですよね。心は離れてしまってるけど、すぐ隣に寝てるっていう。物理的な距離の近さと、心の距離の遠さを同時に感じながら、その状況を眺めているっていう。

かみぬま:そうなんですよね。

──今の世の中にあふれてるラブソングって「愛してる」とか「好きだ」とか、あるいは「別れた」みたいな、1か0かってみたいな両極の感情しか歌ってないようなものが氾濫してるじゃないですか。でも、その間のゴチャゴチャしているような感情って、絶対あるはずなんですよね。心はとっくに離れているのに一緒に住んでたり、それでまたヨリが戻っちゃったり……曖昧な関係や、説明できない感情っていうのはどこにでもありますからね。そういうゴチャゴチャしたところを、かみぬまくんは常に見つめていて、独特の視点で切り取って、ひとつの曲にしているんでしょうね。

かみぬま:やっぱりひねくれているんで、違う目線でそこを責めたいっていうかね。

──それこそ〈夢の中では愛してるなんて偉そうにいってたのに〉ってフレーズにしても、実際には上手く感情が整理がつかない、複雑な心境を表していて。

かみぬま:でも、本当はこういうの入れるのでさえ恥ずかしいぐらいなんですよ(笑)。

──やっぱりそこは、〈好きだぜ〉とか〈愛してる〉みたいなラヴソングへの反発心があるんですか。

かみぬま:反発心っていうか、僕自身がそういった歌に、あまりグッときたことがないんですよね。

──たとえば恋人でも友達でもいいんですけど、会話してるときとか喧嘩してるときとか、あるいはセックスしてる時とかに曲が思い浮かんだりすることはあるんですか?

かみぬま:あー、喧嘩している時はありましたね。喧嘩というか、向こうが泣いている時に、僕はボーッとその姿を見ながら、ふと「これ、曲のフレーズになりそうだな」なんて思ったり(笑)。

──出た! これが、かみぬまゆうたろうの本質ですよ(笑)。

かみぬま:もう、最悪ですよね(笑)。

──いやいや、全然いいと思いますよ! それはもう、アーティストの性っていうか(笑)。

かみぬま:でもまあ、アーティストだけじゃなくても、やっぱり冷静な部分って誰もがあると思うんですよね。そう感じたことを、こうしてアウトプットするかしないかっていうだけで。

──うん、それはたしかにありますね。でもそんなかみぬまくんが、7曲目の「うるさい彼女」で、彼女がいびきをかいたり、寝言言ってるところをちょっと可愛いと思ったりする感覚を持ってるっていうね。これも相手に対する愛情を、ひねくれた表現で歌ったもので。

長崎:でもこの曲が最後に入ったことで、唯一ほっこりするというか、救われるというか……なんていうか、ズルいよね(笑)。

かみぬま:まあ、ズルいっすね(笑)。これは彼女もいびきかいてたから、そのフレーズが浮かんだっていう、そのまんまの曲なんですけど、それ以前に、最初は俺のいびきがうるさいって言われてて。そうして出来た曲なんですよね。

──恋人に限らず、人と人が対すれば、どちらにも欠点もあるだろうし、なかなか許せない癖もあるだろうし。そういう部分も認め合いながら、関係性を深めていくというか。ある意味では長年寄り添った夫婦愛とか、人間愛にも通じるような。

長崎:ああ、たしかに夫婦って観点で聴いたら、また変わってくるなー。

かみぬま:そうなんですよ。その人の立場や心境によっても、聴こえ方が変わってくるんですよね。自分の身の回りにあった事をモチーフにして曲に仕上げたとしても、完成した曲を歌う時、僕は別の歌い手として歌ってる感覚はあるんです。だけど、そうじゃない時もあるんですね。なんていうか、自分で書いた曲に、自分にものすごく響く時もあるし。それは歌詞だけじゃなくて曲全体を通して感情移入するというか……って、そもそも自分で作った曲なんですけど。でも、そうじゃなきゃ歌えないですよね。「ハローグッバイ」とか自分の事ですって歌ったら、世の中のすべてを敵に回すような感じになっちゃうから(笑)。